「そのTシャツ、どこで買ったんですか?」って、
きいてくる酒屋さん

東京都板橋区で昭和9年から営業している酒屋です。
創業90周年となる2025年の4月、長年お世話になった幸町のお店から、東武東上線・大山駅前にお引越し。
念願の「角打ちカウンター」のあるお店として生まれ変わりました!

移転前の店でもスポット開催して大人気だった2500円飲み放題の「角フェス」、地酒やワインの試飲会など数々のイベントを開催できるようになり、お陰様で毎回、満員御礼。

たくさんのお客様がにぎやかに交流している姿を見るのは本当に嬉しく、幸せな時間です。

お酒の力はすごいですね。先代時代からの常連さんも、instagramを見て来たという一見さんも、あっという間に仲良くなります。

時には地方や海外からのお客様も集まって、熊本弁、山形弁、フランス語などが同時に飛び交うことも(笑)

そんな光景を見るたびに、私、再認識するんです。自分はこんなふうに、人と人とが出会う場をつくりたかったんだなぁ、と。

物(お酒)を売るお店じゃない。人と人とが触れ合うことで生まれる、温かく、時に熱く、時間を忘れてしまうほど楽しい時間。それを売るお店。小さなコミュニティですね。

私も、その触れ合いの輪に積極的に混ぜてもらっています。お酒を買ってもらうためじゃ、ないですよ。もちろん、買ってもらえればありがたいですけどね。

それよりもただただ、来てくださった一人ひとりに興味があるんです。話したいんです。知りたいんです。

そうそう。うちは接客時に「何をお探しですか?」っていうのは、禁句にしているんですよ。じゃなくて例えばカッコいいTシャツを着ているお客様だったら「そのTシャツいいですね。どこで買ったんですか?」とか、そんなお声掛けをします。

買い物に来た人に何を買いに来たのかをきいても、ただのQ&Aで終わっちゃうと思うんです。せっかく会えたんだから、もう少し人と人として話をしたい。そのほうがきっと、お互いに楽しいから。

ああ、結局、人が好きってことですね。

バラ色の広告マン人生を諦めたその先は、やっぱり自分の道だった

実は、そもそも酒屋になるつもりなんて、なかったんです。
大卒後、広告代理店に内定が決まっていましたから。
20数年前の当時、憧れの業界でしたからね。広告マンとしてバラ色の人生を思い描いていましたよ、勝手に。

そんな矢先、父が急逝。バブル期の負の遺産があり、経営が火の車だったことはその時に初めて知りました。長男として家業を守る以外の選択肢はなく内定辞退。
酒屋経営のことなんて右も左もわからないまま、三代目に。

ちょうど、ほんの数週間前に現在の妻を両親に紹介したばかりでした。店の台所事情を正直に伝えて「結婚はやめたほうがいいんじゃないか」と言ったら「お金と結婚するわけじゃないんだから」と一蹴されました。女性って強いですね。

それで私にも火が点きました、死に物狂いでやろうって。もしあの時、妻との結婚をやめていたら、いまごろは店自体とっくにギブアップしていたはずですよ、100%間違いなく。

二人三脚、本当に死に物狂いでやりました。嘘みたいな話ですが、とにかく集客するために『地域最安値』をアピールしようと、人気ビールを仕入れ値に1円だけ上乗せした価格で出したこともありました。

毎月ぎりぎり冷や汗をかきながらの綱渡り。それでも負債は徐々に減らしていけましたが、こんな無茶なやり方、続くわけないですよね。どこかで自分たちの強みを見つけ、それを活かした経営にシフトしなければという意識はずっと持っていました。

そんな時に(前の店舗の)隣に大手グループチェーンの食品スーパーが出来ることになりました。「これじゃ、うちのお酒は売れなくなるな」と思ったと同時に、閃いたんです。

「だったらうちは、お酒を売らなくてもいいじゃないか」と。

それからです。『もとはし酒店』を、お酒を売るお店ではなく、お酒を糸口に"人と人がつながる場"として活用していく方向に舵を切ったのは。

あ! いまになって振り返ると、私が広告代理店に就職しようとした動機って、たくさんの人とコミュニケーションがとれる仕事がしたかったからだったんですよ。

ということは、予期せぬ展開で道は大きく変わりましたが、"初志貫徹"していますね、私。

個人商店、みんな違って、みんなでワンチーム

大山は面白い街です。魅力的な個人商店がたくさんあるんです。

価格や品揃えでは大手資本のチェーン店には適わない。だからこそ、それぞれのお店が独自の個性を出して、がんばっている。

もちろん、もとはし酒店もそう。そんな個人商店同士、応援し合って、一緒に商売を楽しんで、一緒に潤っていきたいと思っています。お店を超えたコラボ商品などもつくってみたいですね。

うちのレジカウンター前には、周辺の個人商店のショップカードを並べています。ショットバーさん、居酒屋さん、本格カレー屋さん、定食屋さん、ケーキ屋さん、カフェさん、美容室さん、整骨院さん、ネイルサロンさん……
お酒との関係があろうがなかろうが気にしません。

うちに来たお客様が他のお店にも興味を持って、足を運んでくれたら素敵じゃないですか。小さな応援ですけどね。

ご近所のバーのマスターから「昨日、もとはしさんに寄った帰りだっていうお客さんが来てくれたよ。ありがとう」なんて言われたりした時は嬉しいですよ。

扱う商品がなんであれ、個人店ってコミュニケーションが自然に生まれやすい場だと思います。

それぞれのお店のお客様同士が仲良く交流して、一緒に誘い合って別のお店に行ったりして、いつしか個人商店同士の連なりが一つの、大きくはないかもしれないけど密度の濃いコミュニティになったらいいなぁ……と夢見ています。

最終的には、大山全体が一つの"角打ち"になる、みたいな、ね。


2025年8月某日
もとはし酒店 三代目店主
本橋哲朗

店舗情報

アクセス

住所:〒173-0014 東京都板橋区大山東町17-13-1F

営業日:火曜日定休 火曜日土日は受注発送作業はお休みいたします。
営業時間:11:00~20:00